MMT(現代貨幣理論)によれば、『自国通貨を発行できる政府(中央政府+中央銀行)の自国通貨建ての国債はデフォルトしない』という。主に、世界の国々でも、日米英など。変動相場制のもとで、政府はいくらでも好きなだけでも通貨を発行できる。好きなだけ財政出動できるということになる。
今の日本は、コロナ大過の経済失速状態。今後はV字による景気復興策を政府および与党自民党がその緊急経済対策案を国会に提案していることになる。
私自身も、憲法の問題はちょっと脇に置いて、『自粛要請』をする以上は、『補償』がセットだと思う。つまり、自粛の要請に応じて、経済活動の停止にまで真面目に協力してくれた国民に対し、停止に伴う経済的な損失、売上減、粗利に及ぶほぼ全般までも、政府が何らかの形で資金供給をして、肩代わりすることが必要だと思っている。
具体的には、政府が国債を発行して、日本銀行が紙幣増刷をして、この国債を買い取ることになる。MMTの自国通貨建ての国債はデフォルトしないのだから、いくらでも財政出動できる。政府の借金も肩代わりする。というMMT理論上は言えるが、一抹の不安要素を感じる。もちろんインフレになることは危険なのだが、これについても、議論をちょっと外に置くが…。
一番の不安とは、政府の収入は、国民の税収から成り立っている。税金と国債だ。それを国債だけで賄えるという理論上の話になるから、それでは、国民からの税金とは、もともと何だったのだろう?ということにもなりかねない。また政府が国民のあらゆる経済活動の補填ができても、国家がデフォルトしないということは、これは資本主義社会の全否定にもなる。自由主義経済活動にも疑問が投げかけられる。完全な社会主義政策だ。
アメリカでは、もともとMMTは民主党のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員が2018年の下院選挙で訴えたことで有名だが、彼女を含めアメリカの民主党は社会主義政策者が多くを占める。サンダース民主党の大統領候補者もその一人の代表格だ。トランプ大統領に対して、サンダースの支持層がアメリカ国民の中にも、多くなってきていることがとても印象的だ。
確かにMMTについて理解できるのだが、社会主義政策のような政治理念が日本に今後、MMTが伝播される同時に、日本に広まる懸念を感じざるを得ないのは、私だけだろうか?
日本国民には納税の義務があり、国民が汗水垂らして働いて得た収入から、税金を納めている。政府の収入も税収の見込みを求めなければならないのはもちろん。基本だ。また国民の自由な経済活動の中に、「借金を払わなくても何とかなる、または、税金も払わなくてすむのでは」などという概念が広まってしまうのは、とても危険だ。
「そんなに齷齪(あくせく)働かなくてもいいじゃないか?」。こんな考え方が蔓延する懸念はあるのではないだろうか?これが果たして、日本にとって良いことなのか?懸念がある。
子供の教育にも、「借りたものは返す」という道徳概念は、徹底して幼少教育のころから教え込む必要があるし、日本の教育にも悪影響を及ぼすことにもなりかねない。日本の経済が強いのは、善良なる労働力が基礎になっているからだ。その労働力を確保しているのが、中小零細企業で、日本経済の基盤になっている。日本のGDPの9割がこの中小零細企業の底力によって成り立っていることは決して忘れてはならないと思うのだ。
MMTの考え方は、経済学の事実であって、それをしっかり理解する必要があるが、この日本経済の良質な中身について、うっかりすると日本独自の経済環境や道徳観を忘れてしまうような懸念があるのは充分に注意する必要がある。
今回のコロナアフターには、絶対的にMMTによる財政出動は必要だと強く考えているが、財政出動して経済回復をできても、本来の経済活動と道徳概念は、また再確認する必要がある。政府や与党自民党は、この点には、慎重でなければならないのではないだろうか?
政治とは生き物で誠に難しい。平時では基本的な経済活動の在り方をきちんと議論し、国民に示す。有事では機動力と迅速な対応と決断力が問われる。今は、有事の時だとしっかりと国民に示す時だ。どちらにしても政治家のリーダーシップはますます求められることになる。